日本の棚田
 (棚田学会シンポジウム/1999年8月3日/日本橋三越本店 三越劇場)
 中島峰広氏(早稲田大学)作成のレジュメより


★ 棚田の用語と定義

 (1)棚田の用語
   「棚田」文書にあらわれるのは室町前期のころ
   「山田・山奥田・谷田」江戸時代の農書や農政書

 (2)棚田の定義
    定性的定義 山地や丘陵地などの斜面に階段状にひらかれている水田
    定量的定義 傾斜1/20(20m進んだときに1m上がる傾斜)以上の斜面 にある水田
    棚田(面積1ha以上の団地)全国13,882ケ所、901市町村にある。
        棚田面積221,067ha 水田面積270万ha(1997年)の8パーセントに当たる。

★ 棚田の分布と形態

 (1)棚田の分布
   (1)全国における棚田の分布
     棚田は極端に面積が少ない埼玉・東京・沖縄を除けば、粗密がみられるものの、全国的に存在する。
   (2)分布の特徴
     棚田は、西南日本(富山-岐阜-愛知以西)に、約2/3が集中している。
     三大卓越地 新潟県の頚城丘陵、岡山県の吉備高原、大分県の阿蘇・九重火山山麓

 (2)棚田の形態
   東日本には土坡の棚田が多い。頚城地方に代表される第三紀丘陵地の地辷り地に見られる。
   西日本には石積の棚田が多い。四国山地に代表される断層破砕帯地辷り地に見られる。

 (3)棚田の特質
   (1)農道が極端に不備であること。
   (2)1区画当たりの面積が小さく、区画整理されていないこと。
   (3)日照不足。通風不良の田が多いこと。
   (4)通作距離が遠いこと。

★ 棚田の耕作放棄

 (1)耕作放棄の顕在化→米の生産調整が始まってから加速した。
   生産性の低さ(乗用型機械の利用が困難、農道の未整備)
   休耕地の地域間調整(平坦地の減反分の引き受け)

 (2)農水省と日本土壌協会の調査 1991年〜93年
   (1)全国の棚田面積221,067haのうち約12パーセントが耕作放棄されているという報告がある。
   (2)現在、生産調整の強化により、さらに放棄が進んでいる。
     耕作放棄率は20パーセント台に達している。
   (3)道府県・地方別の耕作放棄
     関東、東海、近畿、中四国の一部では放棄率(9パーセント以上)が高い。
     北海道、東北、中九州では放棄率(5パーセント未満)が低い。

★ 棚田の多面 的機能

 (1)生産の場としての役割
   経済効率が低いとはいえ、棚田がもつ最も重要な役割
   (1)棚田の米は美味しい。
     棚田でも付加価値を高めた米づくりをすれば生き残る道はある。
   (2)山田(棚田)の米は酒米に適している。

 (2)保水機能
   (1)棚田を含む水田はすぐに流れてしまう水を止める役割を果たしている。
   (2)棚田は、このような水を用水路に取り入れ、すぐには流出させない保水の役割を果 たしている。

 (3)洪水調節の役割
   現在の棚田面積が、22.1万ha→全部の棚田の貯水可能容量は6.6億立方メートル。

 (4)土壌侵食防止の役割
   傾斜地を水田として利用する場合には、湛水させる部分を水平にして畦畔を設けなければならない。 →土壌侵食を防止する。

 (5)棚田景観の文化的価値
   (1)棚田景観は、近年農村計画において経済性や利便性にかわってアメニティが追求されるようになってから注目されるようになった農村景観の一つである。
   (2)棚田は農村景観の一つであり、日本人の原風景ともいわれ、誰もがその見事さを認めるところである。
   (3)農水省が認定する棚田百選
     全国117市町村、134か所が指定された。


 


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