★「うるち」と「ライス」との関係
(「米のはなし氈v横尾政雄編著 技報堂出版 1989年) (「米の民俗文化誌」窪寺紘一 世界聖典刊行協会 1993年)などを参考にしました。
日本のコメ、稲作の源流を考える上で、言葉のルーツ、語源を忘れてはなりません。なぜなら、コメ、稲を携えて移住してきた人たちが、コメ、稲をどう呼んでいたかは、重要な問題で、言葉もいっしょに移動したと考えられるからです。
「稲」と「Rice」の語源についてみてみましょう。
★「稲(トウ)」の場合
中国で古来使用されていた「■(のぎへんに、余)」と、その新字である「稲(タオ)」で、これは、安南語の「ガオ」、ミュオン語の「カウ」と関係があるとされています。この言葉の繋がりから、中国へは、インドシナから華南を通
って稲が華北へ伝えられたと考えられます。日本語の「稲(トウ)」、朝鮮語の「ト」、タイ語の「カオ」は、これと同系統の言葉とされています。
★「稲(イネ)」の場合
「イネ」の基本型は「ネ」だといわれています。これは、中国南部の「Nei」「Ni」、ベトナムの「Nep」と繋がる言葉です。
★「コメ」の場合
今は、「米(コメ)」というと、稲の実である、いわゆる、食べる部分を表しますが、昔は、全体を表していました。
「コメ」は「久米(クメ)」とも同じ言葉で、インドシナ東部、中国南部、琉球諸島および、日本に分布する言葉です。
★「ウルチ」の場合
日本の「ウルチ」は、南方系の言葉が起源だといわれています。モン・クメール語の「Bras(ブラス)」系統の言葉です。
東南アジアの内陸に住んでいた種族は、しだいに南下して、南洋諸島にちらばりました。フィリピンの「Bugas」、ミクロネシアの「Pugasu」、ボルネオの「Bahas」、マレー、スマトラの「Beras」は、モン族系の人々が広めたものです。そしてこれは、台湾の南方系諸族にも共通
する言葉です。
★「Rice」の場合
アジアから、西へ伝えられた稲は、今のイラン、アラビア半島へと伝えられ、ヨーロッパへはアラブの文化とともに、今のスペインへ入ったと考えられています。そこから、ポルトガル、スペインの興隆とともに、稲はアメリカ大陸へも伝えられていきました。
英語の「Rice(ライス)」の語源についてみてみましょう。
イギリス「Rice(ライス)」
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ドイツ「Reis(ライス)」
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フランス「Riz(り)」、イタリア「Riso(リソ)」
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スペイン、ポルトガル「Arroz(アローズ)」
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エジプト「Arus(アルース)」→ギリシャ「Oruza(オルザ)」→学名「Oryza(オリザ)」
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アラビア、ペルシャ「Urzy(ウルズィ)」「Arruy(アルイ)」
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アフガニスタン「Vrize」「Urshi」
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インド(サンスクリット語)「Vrihi(ヴリーヒ)」
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モン・クメール語系「Bras(ブラス)」、チベット語「Ab'ras
」
英語の「Rice」は、もとを辿れば、約3000年前のインドの古典『アタルヴァ・ヴェーダ讃歌』の中に載っている「稲」を意味するサンスクリット語の「Vrihi(ヴリーヒ)」に由来します。なお、「Vrihi(ヴリーヒ)」は、モン・クメール語系「Bras(ブラス)」、チベット語「Ab'ras
」に繋がるともいわれています。すると、日本語の「ウルチ」も、「Rice」の系統に繋がる可能性もありますが、言語学的に正しいのかどうかは、今のところわからないようです。
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