Vol.36
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2002年12月21日、土曜日、雨『不幸論』という名の幸福論 この前、書店で『不幸論』(PHP新書、660円)というのを見つけ、なにげなく買って読んでしまいました。中島義道さんという哲学博士が書いた本です。いろいろ(いろんな意味で)考えさせられる本でした。 この本によると、幸福のための条件とは、次の4点だそうです。 (1) 自分の特定の欲望がかなえられていること。 と、あります。なるほどと思います。自分に当てはめるとどうでしょうか? 写 真を撮りながら旅を続ける生活についてです。(1)については、50パーセント達成でしょうか。まだまだ理想的とは言えませんが、でも、経済的には苦しくても、とりあえずやれていますから、50パーセントとしておきましょう。 (2) については、そうしたいと思ってやっているわけですから、95パーセントくらい。 (3)については、微妙です。ある人たちは、面白い生き方だと認めるでしょうが、そうじゃない人たちも世の中にはたくさんいることを、俺は知っています。だからこれも50パーセントくらいでしょうか。 問題は、最後の(4)ですね。これは、10パーセントといったところでしょうか。それはなぜかというと、つまり、はた目には「好きなことやっていますね」と、羨ましがられても、身内の者にとっては、心配をかけているし、迷惑もかけているし、ということです。とくに昔はそうでした。写 真で食べていくことができなかった頃です。家族は心配したでしょう。今は、ある程度こういう生活も認めていると思うので、その分、10パーセントとしておきます。 そうすると、俺の場合、平均すると「幸福度」は50パーセントくらいでしょうか。まあまあという自己評価。いや、この本の著者、中島さんに言わせると、50パーセントの状態は「不幸」と呼ぶべきなのかな? さて、中島さんは、最後のほうでこう書いています。 「それまでの人生があまりにも悲惨だったので、その後の私の人生は奇蹟が起こったように恵まれたものに変わった。国立大学の教授という安定した職があり、一年の半分は休みである。私の著書を愛読してくれる人も全国に数万人いて、印税はかなり入ってくる。ウィーンに別 荘があり、そこに妻子が暮らしていて、互いにニヶ月に一度づつ往復している。・・・」 これを読むと一般常識では幸福を感じてもいい身の上でしょう。俺なんか「羨ましい」と思ってしまいます。ところが、中島さんは、これを「不幸」と呼びます。いや、中島さん自信語っていますが、自分が幸福になってはいけない、あるいは、幸福に後ろめたさを感じるらしいのです。子どものころからそうだったようです。 でも、この文章を読む限り、少なくとも「不幸」な人には映りませんよね。ただ、もしかしたらこういうことかな?と俺は考えます。つまり、先の幸福のための条件の、最後の(4)に、「他人を不幸に陥れない」という条件がありますが、これをクリアーしていないということなのかもしれません。 中島さんはこう書いています。 「私よりはるかに才能ある哲学(研究)者たちが、無職のままである。私のいいかげんな本よりはるかにすぐれた本が、市場価値のないまま打ち捨てられている。私は好きなことをしてかなりの収入を得ている。多くの者は好きでもないことをして、わずかな収入に甘んじている。」 この文章から推察すると、少なくとも中島さんのまわりにいる「才能ある哲学(研究)者たち」は、不公平を感じ、嫉妬し、傷ついているかもしれない。ということは、(4)をクリアーしていません。だから、中島さんは「私は不幸である」と自信を持って断言することができるのではないでしょうか。そしてそれは、中島さんにとっては落ち着ける、居心地のいい状況なのでしょう。 まあ、ここまでは、この『不幸論』という名の幸福論についてですが、俺がもっとも幸福だと感じるのは、「生きていることを実感しているとき」「生き生きした心の状態のとき」です。たまたま今日あるテレビドラマでも、何かをやる動機として、「強烈に生きていることを実感する」「それがシンプルで一番強い動機になる」みたいな話が出てきました。(観た人はわかりますよね?) そしてなぜそのとき生き生きした心の状態になれたかというと、「もしかしたら死ぬ かもしれない状況にあったから」というのです。 その通りだと思うんです。もちろん死んでしまっては元も子もないのですが、生きていることを感じるためには、死を意識することが必要だと思います。いや、死を意識したとき、生きている実感が湧くと言い換えてもいいでしょう。 もっとも、持続する幸福か、瞬間的な幸福か、といった違いはあるでしょう。どちらかというと、「生き生きした心の状態」は、長続きしないようにも思うし。でも、長続きしないからこそ、そういうとき、逆に強烈に感じるのかもしれません。 青柳 |
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